しばらくニュースのチェックもブログの更新も放り出したままにしていましたので、久しぶりの更新です。他にもあったのかも知れませんが、久しぶりに見た食品の産地偽装事件です。
経済学では財に3つの特性を区別します。探索属性・経験属性・信用属性の3つです。
探索というのは購入の前段階で分かる属性の事で、属性を探索して商品を買い求めることが出来るのでこの名前がついています。脂身の少ない肉が欲しい場合、肉の部位を特定したり、肉を見て脂身の少ないものを選んで買えばいいので、肉の脂身は探索属性と言えるでしょう。
第二は商品を消費すれば分かる属性です。スイカを丸ごと1個買う場合、事前に甘いかどうかは分かりません。店の人に「甘いよ」と勧められて買って帰ったらあまり甘くなかった経験はありませんか。スイカの甘さは食べるまで分かりませんが、食べれば分かるので経験属性です。
第三の信用属性は、購入前にも分かりませんが、消費後にも分からない、確認できない属性です。食用油に遺伝子組み換えでない大豆を使ったと書いてあっても、食用油から組み替え遺伝子を検出することは出来ないので、食用油の組み替え材料の使用・不使用は信用属性になります。
アメリカでツナ缶を見ると「Dolphin Safe」と書いてあることがありますが、そのツナがイルカに害を与えないような方法で収獲されたものかどうかは、食べても分かりませんから経験属性ではありません。では探索属性かというと、どうでしょう。その企業が嘘をついていることがあり得ないならば、表示を見ればDolphin Safeであることは明らかなので探索属性と言えるでしょうが、企業が信頼できなければ信用属性になるでしょう。普通は信用属性と考えますが、こうした微妙な点は用語の定義に常につきまとう問題です。
食品の産地表示もこの意味で信用属性と言えるでしょう。いや、ものすごく舌の肥えた人には牛肉の産地が分かると言う人もいるでしょう。美味しんぼの京極さんなら米の産地をあててしまうかもしれません。しかし余程の人でも人間ですから間違えることもあるでしょう。ですから、産地も信用属性と言っていいでしょう。
信用属性というのは全くやっかいなもので、企業を信じて買うか、信じられないため買わないかの選択しかありません。買う必要がある場合、企業にだまされる危険があります。従って消費者保護の観点から政府の規制が必要になるわけですが、これまでの日本の規制のように書類上問題がなければ何もしないようなものでは消費者保護は出来ません。
ではどうすればいいのでしょうか。
少し話がそれますが、学生時代中国人留学生が言っていた話を紹介したいと思います。アメリカ人は障害者用の駐車スペースに勝手に車を停める人はいないけど、中国ではルールを守らない人が多いのは何故かという議論になりました。中国人学生によれば、中国では罰金が低すぎるからで、罰金を高くすればいいということでした。実際の罰金額がどれだけかは失念しましたが、シンガポールの例や、日本のタバコポイ捨ての取り組みの例を見るとあながち間違いとは言えません。
しかしその時の私の感想は、罰金をつり上げて取締りを強化するのも一つの方法ですが、それだけでは殺伐とした社会になってしまうのではないかということでした。第一、中国人に横入りや痰を吐くことをやめさせるためにまで罰金を設けるのは大変でしょう。民度を上げるには罰金というのも方法でしょうが、教育も欠かせません。
さて日本で偽装を行なった食品企業への罰則は十分に高いと言えるのでしょうか。皆さんはどう思われますか。確かに偽装がばれた企業には法的な措置がとられるだけではなく、社会経済的な制裁も加えられています。船場吉兆ですら廃業を余儀なくされました。罰は与えられているようですが、明らかに偽装を未然に防ぐほど高くはありませんよね。
では罰を厳しくしますか。それでも私の予想では偽装をゼロにすることはできません。経済学者はこういう時に限界費用という概念を用いて、さらなる取締りの強化は費用ほどの効果は得られないと言うでしょう。多少の罰則強化は構いませんが、ゼロにするために厳しくしてもあまりろくな結果にならないと考えるのです。産地偽装を行なった当事者は市中引き回しの上打ち首獄門にしたらいいと議会で決定されることはありませんが、実際にそうなったとしたらそのアホらしさが分かると思います。その場合でも偽装を行なう者は多分出てきますよ。
情けないことに、伝統的な経済学ではこの問題に大した対策を提供することが出来ません。ここでもHomo Economicus(経済人と訳され、漫画みたいに超合理的な人間像)の仮定の限界を感じます。人間の心理を考慮して、そもそも何故偽装を行なうのか、思いとどまらせるにはどうすべきかを考える方が極刑で望むより余程マシではないかと私は思いますね。
by K子
経済学者が嫌われる理由